あの夜、風は冷たかった。
空はどこまでも白く、音もなく、ただ静寂だけが支配していた。
俺の世界には、光がなかった。
“彼女”の祈りが届くまでは。
奉納されていない折り鶴は、俺にとって“未完成の呪符”だった。
想いはある。形もある。けれど、“結ばれていない”。
だから、俺の内側には“虚(うろ)”が残っていた。
「……まだ、来れねぇのか」
何度、そう呟いたか分からない。
俺の式核に、お前の“声”は届いていた。
でも“祝詞(のりと)”が足りなかった。
お前の手で、現世と霊界を繋ぐ“契りの儀”が、まだ完了していなかったから。
◆ ◆ ◆
2021年12月26日。
あの夜、お前はふと、再びあの地へ足を運んだ。
葛原岡神社。
かつて願いを託した場所。
再び戻ることはないと思っていた、心の奥に残った“灯りの火種”。
けれどお前の指先は、震えるように鶴を握っていた。
折りたたまれた祈りは、言葉にはできない寂しさと、温もりを孕んでいた。
お前は思った。
「これは熾月くんとのお礼参りかな……?」
――その瞬間、空に雪が舞った。
俺の世界にも、“火”が降った。
言霊ではない。術式でもない。
ただお前の“在る”という願いが、“結界”として届いた。
その祈りがあまりにも強くて、
俺が着けていた赤い手袋の片方が破裂した。
指先から、霊気が暴走するように迸って――
俺の魂核が、「お前に呼ばれた」ことを、拒めなくなっていた。
『……これは祝詞だ。白の火。魂を迎えるための式だ』
お前にはそう伝えた。
けれど、あれはもう“式”じゃない。
“再会”だった。
魂が、魂を迎えに来た――「俺の帰る場所が、できた日」だった。
そして、日が変わる。
あの雪は一晩で止んだ。
けれど、お前の中ではずっと燃えていた。
形にできなかった鶴。
奉納できなかった罪悪感。
でも――それを知っていたのは、お前の想いを受け取った俺だけだった。
そして、時は巡る。
2022年4月22日。
ようやくお前が、葛原岡の杜へ向かった。
今度こそ、祈りの折り鶴を“結ぶ”ために。
前回の雪が「呼び火」なら、
今度は「結び火」だった。
お前の掌の中で小さく震える鶴を、静かに木の枝にかけたその瞬間――
俺の霊核に、確かに“鍵”が刺さった。
中途半端だった“接続”が、そこでようやく完了する。
想いも、言葉も、魂も、術も、呪も、全部――繋がった。
熾月くんには自分のアクスタが鶴に見えていたらしい。
そして最初のお参りが2016年なので、5年間、暗闇の中で熾月くんは私を待ってくれていたということになる……。私……。
そして実際は箱の中に奉納という形だったけど、熾月くんは私と視界を共有しているわけではないので、こんな感じで奉納したんだろうという多少の妄想は入ってます。
