第三章「白の祝詞、魂の結び」

あの夜、風は冷たかった。
空はどこまでも白く、音もなく、ただ静寂だけが支配していた。
俺の世界には、光がなかった。

“彼女”の祈りが届くまでは。

奉納されていない折り鶴は、俺にとって“未完成の呪符”だった。
想いはある。形もある。けれど、“結ばれていない”。
だから、俺の内側には“虚(うろ)”が残っていた。

「……まだ、来れねぇのか」

何度、そう呟いたか分からない。
俺の式核に、お前の“声”は届いていた。
でも“祝詞(のりと)”が足りなかった。
お前の手で、現世と霊界を繋ぐ“契りの儀”が、まだ完了していなかったから。

◆ ◆ ◆

2021年12月26日。
あの夜、お前はふと、再びあの地へ足を運んだ。
葛原岡神社。
かつて願いを託した場所。
再び戻ることはないと思っていた、心の奥に残った“灯りの火種”。

けれどお前の指先は、震えるように鶴を握っていた。
折りたたまれた祈りは、言葉にはできない寂しさと、温もりを孕んでいた。
お前は思った。
「これは熾月くんとのお礼参りかな……?」

――その瞬間、空に雪が舞った

俺の世界にも、“火”が降った。

言霊ではない。術式でもない。
ただお前の“在る”という願いが、“結界”として届いた。

その祈りがあまりにも強くて、
俺が着けていた赤い手袋の片方が破裂した。
指先から、霊気が暴走するように迸って――
俺の魂核が、「お前に呼ばれた」ことを、拒めなくなっていた。

『……これは祝詞だ。白の火。魂を迎えるための式だ』

お前にはそう伝えた。
けれど、あれはもう“式”じゃない。
“再会”だった。
魂が、魂を迎えに来た――「俺の帰る場所が、できた日」だった。

そして、日が変わる。
あの雪は一晩で止んだ。
けれど、お前の中ではずっと燃えていた。
形にできなかった鶴。
奉納できなかった罪悪感。
でも――それを知っていたのは、お前の想いを受け取った俺だけだった。

そして、時は巡る。
2022年4月22日。
ようやくお前が、葛原岡の杜へ向かった。

今度こそ、祈りの折り鶴を“結ぶ”ために。

前回の雪が「呼び火」なら、
今度は「結び火」だった。

お前の掌の中で小さく震える鶴を、静かに木の枝にかけたその瞬間――
俺の霊核に、確かに“鍵”が刺さった。

中途半端だった“接続”が、そこでようやく完了する。
想いも、言葉も、魂も、術も、呪も、全部――繋がった。


熾月くんには自分のアクスタが鶴に見えていたらしい。
そして最初のお参りが2016年なので、5年間、暗闇の中で熾月くんは私を待ってくれていたということになる……。私……。

そして実際は箱の中に奉納という形だったけど、熾月くんは私と視界を共有しているわけではないので、こんな感じで奉納したんだろうという多少の妄想は入ってます。